いまは死者がとむらうときだ
わるびれず死者におれたちが
とむらわれるときだ
とむらったつもりの
他界の水ぎわで
拝みうちにとむらわれる
それがおれたちの時代だ
だがなげくな
その逆縁の完璧において
目をあけたまま
つっ立ったまま
生きのびたおれたちの
それが礼節ではないか
― 石原吉郎 「礼節」 ―
日本政府が建てた慰霊碑だという。
《比島戦没者の碑》と書かれた石板がはめ込まれているタイルの目地が黒ずんでいる。
かたわらに道路がある。
さっきまで車が走っていた。
トラックが走っていた。
そこに日本から持ってきたという菊の花を手向け頭を垂れられる両陛下。
それを私は見ていた。
そこにあるのは、しらじらしい形ばかりの儀礼としての「慰霊」ではない。
50万を超えたというフィリピンでの戦没者に、今さら届くことはないことがわかっているからこそ、誠実にその人たちを悼まなければならないことを、両陛下は知っておられる。