はしもとりさ先生は、品川区の小学校で一年生を担任している。
昨日、そのりさ先生が塾に寄ってくれた。
昨日は「や」の字のお勉強をしたそうである。
「せんせ、《や》の字って、むずかしいね」
というのが、子どもたちの反応だそうである。
たしかに、《や》は、《く》や《へ》と比べると、格段のむずかしさである。
さて、そんな一年生、こんど、動物園にはじめての遠足に出かけるんだそうだ。
それで、昨日そのしおりを配ったあと、
「なにか、しつもんはありませんか」
というと、さっそく、女の子が手をあげて、こんなしつもんをしたそうである。
「おねつがでたら、どうすればいいですか」
「おねつがでたら、おうちでねてないといけませんね」
りさ先生がそうこたえると、こんどは男の子がげんきよく手をあげて
「ほねがおれたときは、どうしたらばいいですか」
と言うんだそうな。
「ほ、ほ、ほね?
そうね、ほねがおれたら、どうぶつえんじゃなくて、おいしゃさんにいかないといけないわね」
こんどは、別の女の子が不安そうに
「あのー、はがぬけたら、どうなりますか」
「はがぬけても、だいじょうぶですよ。
えんそくにはいけますよ」
すると、その女の子は、安心した顔をして
「せんせ、いま、はがぬけたの」
と、言って抜けた歯を右手に持って、イーっと前歯を見せたそうである。
もちろん、私は大笑いして聞いていたが、それにしても、子どもというものは、すごいものだなあ!
大人が「あたりまえ」のことだとおもっていることが、ちっともあたりまえじゃないんだな。
そこがすごい。
そういえば、入学二日目の日、通学用の帽子が配られた時、一人の女の子が
「せんせい、どうしてこのお帽子、きいろいの?」
ときいてきたそうである。
「それはね、トラックのうんてんしゅさんが、そのお帽子をかぶっていると、あ、あすこに君たちがいるぞ、って、すぐにわかるためだよ」
「ふーん。
でも、わたし、あかがよかったな」
「そうね、あかもすてきね。
でも、きいろの方が、うんてんしゅさんによくみえるんだよ」
すると、その女の子のうしろの席の男の子が、
「せんせ、ぼく、いいこと考えた!
きいろの上のところを、あかにすればいいんだ!」
あんた、それじゃあ、オムライスでしょ!
と、りさ先生は思ったそうだが、それは口にはしなかったそうである。