どうして世間は意地悪く これほど影を尊ぶのか ぼくがこの世に生をうけて以来 五十三年の歳月が流れたが その間ずっと影が命だったとでもいうのだろうか
― シャミッソー 「影をなくした男」 (池内紀 訳) ―
驚いたことに、21世紀の東京では、昼間でさえ、たった一つの自分の影を地面に落とす、などという贅沢はできなくなってきたらしい。
お日さまがつくる影のほかに、高いビルたちの、みがきあげられた壁面に反射したその光が、私の影をいくつもつくってみせるのだ。