街角にふりむき見たる風景もただわたくしがみつめたるのみ

 

 

                    早川温

 

夏の真昼、裏通りを通って駅に向かう。
細い路地は南側の家々の軒先からわずかに落ちる影が道を濃くしているだけだ。
しんとして誰も通らない。
ふと振り返ってみたところで、それはなんのへんてつもない白い路だ。

金沢で友人たちに会い、酒を飲み、話を聞く。
みなで共通の昔話に笑い合い、今の政権のひどさ加減をののしり合ってはいたが、一人一人にとってほんとうに心うごかされた大切な《風景》は、けっしてだれとも共有することができないのかもしれない。
言葉に表すことができない、わたくしひとりの、かすかな、けれどもたしかにあった心のゆらぎ、ざわめき。

街角にふりむき見たる風景もただわたくしがみつめたるのみ

そんな、ただわたくしだけがみつめた風景をかかえながら、人は年を重ねていくのだろう。

 

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 晩夏光川面に揺れて風吹けばはかなきことをわれは思ひつ