きのふこそ夏は暮れしか

     朝戸出の衣手さむし秋の初風

 

                         源実朝

 

ほんのこの間まで、暑い暑い日が続いていたのに、この二三日、塾に来る子どもたちは、もうみんな長袖を着ている。
こんな急に秋になるものなのだろうか。
まだ八月。
まだ夏休み中だというのに。

高村光太郎に

きっぱりと冬が来た

というて始まる詩がありますが、今年は秋が、まるで、夏を断ち切るかのように「きっぱりと」やって来ました。
こんな秋、あまり記憶にありません。

 

岩波の日本古典文学大系の「山家集・金槐和歌集」の小島吉雄氏の解説によれば、

「総じて、実朝の代表歌とされる歌は、ほぼ衆口一致して、その数ニ十に満たない。」

のだそうです。
今日引用した歌が、その「衆口一致」の中に入るのかどうか私は知りませんが、

昨日で夏は終わったのだ
今朝戸を開けて外に出ると衣の袖が寒いばかりに秋の初風が吹いている

という歌は、実に今年の秋にふさわしいような気がします。
よい歌だなあ。

同じく『金塊和歌集』、「秋部」にある

吹く風は涼しくもあるか

    おのづから山の蝉鳴きて秋は来にけり

という歌にも、しみじみ心ひかれます。
これは、お盆過ぎの「晩夏」のイメージでしょうか。
「山の蝉」はカナカナなんでしょうが、先日、当地でもツクツクホウシの声を耳にしました。