しらつゆに 風の吹きしく 秋の野は

 

  つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける

 

 

      文屋朝康

 

 

文屋朝康(ふんやのあさやす)。

「むべ山風を」の歌の文屋康秀の息子です。
お父さんも息子も風の歌ですね。
この歌、言葉でわかりづらいのは「吹きしく」でしょうか。
漢字で書くと「吹き頻く」となるはずです。
「頻度」の「頻」、今の訓読みなら「頻(しき)りに」です。
だから、「風の吹きしく」は「しきりに風が吹く」ということですね。

 

「つらぬきとめぬ 玉」というのは、糸を通していない宝石(真珠)ということです。
歌を訳してみましょう。

 

朝、夜のうちに葉ごとに露を置いた草茂る野辺に、秋の風がしきりに吹きつける。
そのたびに、朝日にきらめきながらその露が飛び散る。
それは、まるで、まだ糸を通していない真珠の玉が散るようだ。

 

谷川俊太郎にこんな詩句があります。

 

風のおかげで樹も動く喜びを知っている

 

葉に置く露を玉(白玉=真珠)と見る発想は、この時代の歌人たちに多いのですが、この歌には、それに動きが加わっている。
そこがたぶん新しい。
風によって飛び散ることができた白露のよろこびをうたったわけではないのでしょうが。

 

 

白露に 風が吹くたび きらきらと

 

   真珠の玉が 散るよ秋の野