今の世の中は物差を信用する。
アンリ・ルソーという税関吏の画かきは男の顔をかくのに物差ではかってかいた。
研究所では木炭でモデルをはかっている生徒をいつも見る。
正確でなければ家が建てられない。
金も数えられない。
試験も通らない。
万事物差ではかる世の中になってしまった。
しかし物差でははかれないものがある。
人間の感動は物差でははかれない。
だから古来一尺悲しい、三尺悲しいとは言わない。
釣り落とした鯛の感動は三尺あったと言ってもいいのだ。
感動がそれくらいあったのだ。
― 中川一政 「つりおとした魚の寸法」―