紅梅の紅の通へる幹ならん

                    高浜虚子

 

部屋代を払いに大家の門をくぐる。
こんなに寒い冬でも、庭の梅はもう咲いている。

「紅の通ひし」ではなく「紅の通へる」と詠んだとき、虚子の眼が見、あるいは手がふれているのは、まだ花を着けぬ梅の幹だろう。
いまだ花著けぬごつごつした梅の幹に、血の色を思わせる樹液を透視する虚子の眼は、老人の官能の匂いがする。

 

紅梅や真青の空に昼の月