北の屋かげに消え残りたる雪の、いたう凍りたるに、さし寄せたる車の轅(ながえ)も、霜いたくきらめきて、有明の月さやかなれども、くまなくはあらぬに、人ばなれたる御堂の廊に、なみなみにはあらずと見ゆる男、女となげしに尻かけて、物語するこそ、何事にかあらん、尽きすまじけれ。

かぶし・かたちなど、いとよしと見えて、えもいはぬ匂ひの、さとかをりたるこそ、をかしけれ。
けはひなど、はつれはつれきこえたるもゆかし。

 

建物の北側の陰に消え残っている雪は固く凍りつき、そこに寄せてある牛車の長柄に下りた霜をきらきらときらめかせている有明の月は冴えわたっているのだけれど、まったくの満月というわけでもない。そんな中、邸内の仏を安置してある御堂に通じるひと気のない廊の横に渡してあるなげしに腰をかけて、なみの身分ではないと見える男が、女と語り合っているようすを見ていると、何を話してているのだろうか、いつまでもその話は尽きそうもない。

頭の形も顔つきもたいそうよく見えて、衣服に焚きこめたなんともいえぬ匂いが、ふとした動きにさっとうち香るのもすばらしい。
その話し声がところどころきれぎれに聞えてくるのも、何を話しているのか知りたい気にさせる。

 

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たとえ、雪がカチンコチンに固まっていても、若い男女の語らいに、寒さなんぞ何の邪魔にもなりませぬな。
よいものですな。

このような語らいを諸兄諸姉もなされたご経験がおありでしょうか。
私にも、あったような、なかったような・・・・。
たとえなくても、あったことにしておきたい気がしております。

しかしまあ、有明の月が出ておるというのですから、夜中と言わんよりは、未明ですな。
いいんでしょうか?
いいんでしょうな。
なにしろ、日本にはシンデレラなどという無粋な物語はありませんからな。

シンデレラで思い出しましたが、先日愛ちゃんが図書館からたくさん借りてきた本の一冊を横取りして読んでいたら、こんなことが書いてありました。

幼稚園児に、シンデレラの話の読み聞かせをしていた先生が、読み終わった後、

「シンデレラはおしろになにをわすれてきたでしょう」

と聞くと、女の子のひとりが答えたそうです。

「おうじさまをすきなきもち!」

うーん、そうですか。
ガラスの靴だけじゃあなかったんですな。
言われてみれば、たしかにそのような気がしますな。

それにしても、女の人というのは、幼稚園児であっても端倪すべからざるものです。

 

ところで、このとき兼好はどこにいたんでしょうか?
彼は自分のことを書いたのでしょうか?