できるだけ話してくれるのがいいのよ。あなたの言葉で語ってちょうだい。

 

― T・S・エリオット  「一族再会」 (福田恒存 訳) ―

 

 

さっき、やって来た愛ちゃん、部屋に入るなり、目をまんまるにして言うのである。

「大谷、マジ、ヤバい!」

大谷とは、プロ野球日本ハムの大谷投手のことである。

 

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実は昨日、彼女たち一家はマリンスタジアムの「ピクニック・シート」なるグランドにわりと近い五人掛けの席のチケットをもらったとかで、ロッテ=日ハム戦を、観に出かけていたのだ。

十日ほど前、それを聞いて、
「なんだよ、日ハム戦なら、大谷出るかもしれないんだから、野球のわからない奴を留守番させて、代わりに、わしを混ぜてくれよ」
と、哀願したのに、
「だめーっ!」
と言われていたのだ。

で、実際、昨日の先発は大谷。
くやしいなあ。

で、愛ちゃんは、と言えば、たっぷり大谷君をタンノウしてきたらしい。

なにしろ、ヤバかったらしいのだもの。

「惚れたか」
私がきくと、しきりに首を縦に振りながら、
「惚れた、惚れた」
と言うのである。
「カッコよすぎた」
と言うのである。

「スタイル、ほんとに、いいし。
だって、あの人、めちゃくちゃ、足、長いんだもん!
投げてるときの足の長さ!
見て、この写真!」

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たしかに。

「球も速いなんてもじゃないし。
投げたとたん、もうスッとキャッチャーのミットにはいってるんだもん」

見たかった!

最後のヒーロー・インタビューも三塁側で、愛ちゃんは大満足であったらしい。

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そういえば、山田さんが愛ちゃんと同じ年頃のころ、イチローの試合を見て同じように興奮していたことを思い出しました。

自分がこころ踊った出来事を、素直に表現する若い娘さんのそばにいるのは、なかなかわるくないものです。