秋はしづかに手をあげ
秋はしづかに歩みくる
― 室生犀星 「月草」-
朝、目が覚めると部屋の空気がしんと冷えていた。
私は、この秋初めての長袖のカッターシャツを着た。
秋だな、と思って、犀星のこの詩を引用しようとして、さっき詩集を開きここに書き写そうとしたとき、自分が、五十年近くこの詩のはじまりの一行に、勝手に「て」の音を加えて覚えていたことにはじめて気が付いた。
秋はしづかに手をあげて
秋はしづかにあゆみくる
もちろんまちがいなんだが、自分の中では、こう言わないと、やっぱりなんだか座りがわるい。
同郷のよしみだ、犀星も許してくれるだろう。
(くれないか!)
というわけで、秋はしづかに手をあげて、私の部屋にもやって来て、やはらかな午後の日が射している窓際の水槽に、金魚がしづかに藻をついばんでいる。
気がつけば、窓の下の柚子の実のいくつかが、いつのまにかきいろく色づきはじめている。
ヤギコは・・・
えーと、ヤギコは、あんなところで日向ぼっこをしている。
今日の朝日歌壇の歌に曰く、
おとなしく犬は抱かれて救助さる家(うち)の猫ならああはいくまい
(ひたちなか市) 猪狩直子
この前の洪水のヘリコプター救助ですな。
ふふふ、って笑ってしまった。