西大寺静然(さいだいじのじやうねん)上人、腰かがまり、眉白く、まことに徳たけたる有様にて、内裏へ参られたりけるを、西園寺内大臣殿、
「あなたふとのけしきや」
とて、信仰の気色(きそく)ありければ、賢朝卿(すけとものきやう)これを見て、
「年のよりたるに候」
と申されけり。
後日に、むく犬のあさましく老いさらぼひて、毛はげたるをひかせて、
「この気色(けしき)、たふとく見えて候」
とて、内府へ参らせられたりけるとぞ。
西大寺の静然(じょうねん)上人は、腰がかがまり、眉は白く、まことに徳がたかそうな様子であられた。その上人が、内裏へ参られたのを、西園寺の内大臣殿が、
「ああなんとも尊いお姿であることよ」
と言って、上人のことをたいそうありがたがるようすが見えた。すると、日野賢朝の卿がこれを見て、
「あれは年を取っているだけの事でございます」
と申された。
後日賢朝卿は、もじゃもじゃ犬のひどく老いさらばえてその毛がところどころはげたのを人に引かせて、
「この様子、尊く見えましてございます」
といって、内大臣のもとへ贈りなされたということです。
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日野賢朝、すごいですな。
ただものじゃあ、ない。
ところで、この日野賢朝という人、「正中の変」という後醍醐天皇の第一回クーデター未遂計画の首謀者ということで、佐渡に流され、、後に、佐渡で鎌倉幕府によって斬られている人です。
兼好はこの人のファンだったのかもしれない。
この人の話、徒然草ではあと二回続きます。