「みな結びといふは、糸を結び重ねたるが、蜷(みな)といふ貝に似たればいふ」
と、あるやんごとなき人、おほせられき。
「にな」といふは誤りなり。

 

「《みな結び」といふ組紐の結び方は、糸を結び重ねた形が、蜷(みな)といふ貝に似ているからそういふのです」
と、ある高貴なお方が、おっしゃられました。
「にな」といふは誤りである。

 

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私たちが学生の頃、京都の府知事は蜷川(にながわ)というひとでした。
(たしか、名前の方は虎三)
「東の美濃部・西の蜷川」、そこに大阪の府知事を含めて、《革新三首長》などと言われたもんでございますが、思えばあれから40数年、日本も変ったものでございます。

ところで、【蜷】(にな)というのは、巻貝のことですな。
カワニナというのは、たしかホタルの幼虫の餌になるもので、犀川にもたくさんいた。

学生の頃、私が桜橋を渡っていたとき、ふと下を見ると河原にバケツを下げた若い男がいる。
よく見れば、同じクラスの岡山出身で幸町の下宿に住んでいたYである。、
「おーい!」
と声をかけて、
「なにしとらん?」
と聞いたところ、顔を上げた彼は
「タニシを取っとる」
と大声で答えた。
そこで、私も河原に下りてのぞいて見ると、たしかにバケツの半分ばかりまでもびっしり小さな巻貝がいる。
「なんせ、このごろは俺はタンパク不足だからな」
というのが彼の言葉であったが、彼が拾っていたのは、タニシではなくカワニナであった。
(タニシは丸っこいがカワニナはそれよりほっそりしている)
カワニナというのは、何やらおそろしい病気の原虫の中間宿主になる生き物なので、そんなものを食べるのは止すように私は忠告したのだが、
「なーに、煮れば大丈夫じゃろう」
というのが、その男の返事であった。

というわけで、蜷川というのはたぶん「蜷」がたくさんいる川ということなんだろうが、
《【蜷】を「にな」というのは誤りである》
と、兼好さんは断固言うとるわけです。
「みな」が正しい、というわけです。
であるなら、蜷川は「みながわ」と呼ぶべきなんでしょうか。
ということはですよ、「皆川」さんという名前の方は、実は「蜷川」さんの遠い親戚筋に当たるってことでしょうかねえ。
うーん。

ところで、何のかかわりもないことながら、昔、ジュリーこと沢田研二氏が

夜の風をこわがった ニーナ

なんて歌を絶唱していたこともありましなぁ。