大寒のシリウス教ふるまでもなく

 

 

             北井精一

 

 

 

シリウスがいて,オリオンがいる。
十日過ぎの月がオリオンの肩先に光っている。

今夜、ひさびさの微醺。
だから、その手綱、たとえ擦り切れていようと、たとえばこんな歌を口ずさみながら歩くに値する夜だ。

 

      寒い夜の自画像              中原中也

 

きらびやかでもないけれど
この一本の手綱をはなさず
この陰暗の地域を過ぎる!
その志明らかなれば
冬の夜を我は嘆かず
人々の焦躁のみの愁(かな)しみや
憧れに引廻される女等の鼻唄を
わが琑細なる罰と感じ
そが、わが皮膚を刺すにまかす。

蹌踉(よろ)めくままに静もりを保ち、
聊(いささか)は儀文めいた心地をもつて
われはわが怠惰を諌(いさ)める
寒月の下を往きながら。

陽気で、坦々として、而(しか)も己を売らないことをと、
わが魂の願ふことであった!

 

追伸:

今夜もあのカラスは、いつもの夜と変わらず、松の木のかたわらにある電柱の冷たい鉄の腕木にたった一羽じっと動かずにいました。