美しい一番だった。
今日の、白鵬=稀勢の里戦。
両雄、力と技を尽しての取り組みももちろんよかったが、なによりも、二人が淡々と、しかし充実した仕切りを重ねる間、「稀勢の里コール」が起きなかったのがよかった。
一度手拍子らしきものが場内に起きかけたが、それは結局は一人一人の観客が自然に上げる声の中に消えていった。
人々が、ほんとうに固唾を呑み大一番を待つ時、声をそろえての応援、などということは起きないものなのだ。
満員の場内で、てんでに贔屓の力士の名を呼ぶ観客――それは大相撲ではあたり前の観戦風景だったはずだ。
なんだか子どもの頃テレビで見ていた、栃錦=若乃花戦や大鵬=柏戸戦が帰って来たようだった。
それが心地よかった。
それにしても、大相撲で、皆と合わせて手拍子を打ち、声をそろえて贔屓の力士の名を叫ぼうとするのはいったい何のためなんだろう。
気持ちいいんだろうか。
私は昔から「みんな一緒に一斉に」と聞くだけで、「そんならわしはそれはやらない」と決めてしまうような男だったので、そこらあたりがよくわからんのである。
気持ちがわるいのである。
それにしてもいい相撲だったなあ。