15年ほど前、ギャンブル依存症の患者に出会った。
彼のギャンブルは主にパチンコだったが、負けを取り返すために借金を重ねたあげくローン会社のブラックリストに載った。
返済請求の電話や借金取りの訪問が頻繁に勤務先に及ぶに至り、彼は職を失った。
再三借金の尻拭いをしていた両親からも見放され、初診時には数日間水しか飲んでいないという困窮ぶりだった。

当時、GA(ギャンブル依存症の自助グループ)は大都市にしかなく、医師はやむなく金沢市内のAA(アルコール依存症の自助グループ)を紹介した。

しかし、彼は依存物が異なるアルコール依存症者達には馴染めなかった。
その後2度ほど診察に来たが、医師に「1万円でいいから貸してもらえないか」と土下座するように懇願していたのが彼を見る最後となった。

ギャンブル依存症、アルコール依存症、薬物依存症、セックス依存症、買い物依存症、依存症にはいろいろあるが根っこはみな同じである。
先日、カジノ解禁法がなし崩し的に成立し、厚労省は依存症対策を強化するため5億3千万円の事業費を計上した。
この金で、横須賀市の久里浜医療センターを拠点機関に指定し、依存症回復施設職員の研修を実施するという。
しかし、施設職員の中で依存症患者の回復に対し無力感を持っていない人間は皆無である。
皆、依存症患者は施設では回復しないと知っている。
回復する可能性があるのは、それぞれの自助グループにつながり続ける者だけだからである。
施設職員にできるのは、患者を自助グループにつなげる努力だけである。
厚労省がどんな研修を考えているのか知らないが、5億3千万円は溝に捨てることになるだろう。

「この法案を通したら、こういうリスクが確実に起きる」ということを誰もが知りながら成立した法律が未だかつてあっただろうか。
経済成長だけが唯一の善で、それ以外のことには一顧だにせず切り捨てる首相の手法はまともではない。
かつてG7の会見で酩酊状態を全世界に晒し辞任した大臣がいた。
彼は首相の盟友ではなかったか。
首相は、彼の死から依存症の恐ろしさを何も学ばなかったようである。
2014年に厚労省が出した推計によると、全国のギャンブル依存症者は536万人だという。
彼らはある意味、財産を全て吐き出し借金までして日本の経済活性化に貢献した人達である。
そして、彼らの病気は自助グループでなければ回復しない。
自助グループの運営には国からの援助などまったくない。
自助グループは権力からの支援を何よりも嫌うからである。
それを良いことに、死を賭してとことん消費活動をし、医療費もかからない人間を新たに増やすことで日本経済を活性化させる。
首相が目論んでいるのは、そんなろくでもないことなのかもしれない。

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おたよりありがとうございます。
まったくまあ、見たくもない、聞きたくもないニュースばかりが続く、ロクデモナイ世の中になったものです。

ところで、先日、わたくし、姉とともに、小林研一郎指揮、日本フィルハーモニー交響楽団の「第九」を聴きに行ってまいりました。
姉に誘われた時、
「年末に《第九》?――俗だなあ」
なぞと思っていたのですが、いやー、よかった!
ものすごく、よかった。
会場を出た時、この一年にこびりついた世俗の垢が、すべて洗い流されたような気がしました。

今の世の、このろくでなさから逃れるには、音楽しかないのかもしれません。
なんでも今の世の中「逃げるは恥だが役に立つ」んだそうですから。

ところで、邑井君。
あの第四楽章、やっぱり、ピッコロは空を飛んでいましたよ!

すてぱん