鵲(かささぎ)の 渡せる橋に 置く霜の 

     

                    白きを見れば 夜ぞ更けにける

 

               中納言家持

 

「中納言家持」というのは、むろん、大友家持のことで、この人が万葉集を編纂した人だということは、知っているはずです。(よね?)

 

さて、鵲(かささぎ)というのは、鳥の名前です。
カラスの仲間だけれど、胸と羽根の先が白い。
要は、ヤギコを鳥にしたようなのを思い浮かべればいい。
(画像を是非、見てごらんなさい。たいそうかわいい)

 

その「鵲の渡せる橋」というのは、中国の伝説によると、天の河に渡された橋のことです。
七夕の夜、このカササギたちが真白な羽を連ねて、天の河に橋をかけて、織姫さまを渡らせた、ということになっている。
(男の方じゃなくて、女の子のために橋をかけてあげるなんて、なんと正しい鳥たちでしょう!)

でもね、江戸時代に賀茂真淵(かものまぶち)という国学者がいて、こんなことを言った。
「〈鵲の渡せる橋〉っていうのは、天上にひとしい宮中にかかっている階段(きざはし)のことで、そこに霜が降りているんだよ」
で、その通りだ、という支持者が多いそうな。

うーん、そうなの?
ちがうでしょ!
という気が、私はするな。

 

あのですね、家持は、夜空を見上げています。
キーンと張りつめた冬の夜の空気の中に、きらきらと輝く銀河が空に横たわっています。
地上の橋の上に白く霜が降りるこの冬の夜、あの銀河があんなにも冷え冷えと見えるのは、七夕の夜、恋人を思う人のもとに渡してやったあの天にかかる鵲の橋にも、今は真白な霜が降りているからなのだろう。
・・・ああ、夜も更けてきた。

 

そう思って歌ったに違いない。

 

夏の恋 渡した橋が きらきらと

 

                    霜に光って 真冬真夜中