これやこの 行くも帰るも 別れては
しるもしらぬも あふ坂の関
蝉丸
蝉丸(せみまる)。
この人も、ほんとにいたのかどうかわからない人です。
このひと、醍醐天皇の子で、盲目ゆえに捨てられた琵琶の名手、という伝説が、「今昔物語」に出ていますし、「平家物語」の中にもその話が引用されていますが、でも、本当のことはわからない。
「これやこの」の「や」は疑問の係助詞ですから、「これが?そうか、これですか」という意味です。
「行くも帰るも」は「都から出ていく人も都へ帰る人も」。
「別れては」は最後の「あふ」にかかって、「別れては逢う」ということです。
「しるもしらぬも」も「行くも帰るも」同様「知っている人も知らない人も」。
「あふ坂の関」は「逢坂の関」。
京都府から滋賀県にすこし入ったあたりにある、東海道の関所です。
で、この「逢坂の関」は、和歌の場合、ほとんどいつでも「逢ふ」との掛詞になっています。
というわけで、歌全体の意味は
これが?――そうか、ここがそうなんですね。 東へ行く人、京へ帰る人が、別れてはまた逢い、 知っている人も、見知らぬ人も、みな出逢うという、あの逢坂の関なんですね。
それを無理やり、現代語の歌にしてみれば