住之江の 岸に寄る波 よるさへや

 

    夢の通路(かよひぢ) 人目よくらむ

 

 

          藤原敏行朝臣

 

 

藤原敏行朝臣(ふじわらのとしゆきあそん)。
この人も朝臣ですから「藤原敏行さん」、ですね。
この人、君は知らないわけじゃない。
君が中学の時に習った

 

秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる

 

という名歌の作者です。

 

さて「住の江」大阪湾にある地名です。
「江」というのは、海や湖が陸の方に入りこんだところですね。
というわけで「住の江の 岸に寄る波」そのままの意味、訳すまでもない。
でも、これは、次に来る「夜」を引き出すための序詞なのです。
とはいえ、繰り返し寄せる波は、恋する相手への募る思いもイメージさせます。

 

さて、この序詞によって引き出された「夜さへや」という句ですが、ここに出てくる
「さへ」は添加を表す副助詞で、意味は「・・・までも」
であることに注意してください。

ですから、句の意味は「(昼はもとより)夜までもなの?」となります。

現代語の「さえ」は、軽いものを上げてそれよりも重いものを暗示する働きをしますが、その働きをする副助詞は古文では「だに」です。

 

「夢の通路」は、夢の中で恋人のもとへ通う路です。
昔の人は、人が夢に出てくるのは、その人の自分への思いが強いからだ、と思っていました。

 

「人目よくらむ」の「よく」は下二段の動詞の終止形。
よける、避ける」という意味です。

らむ」は現在推量の助動詞ですね。
意味は、

①前に理由が書いてある時は、「~というわけで…なのだろう」となります

ex; 吹くからに秋の草木のしおるればむべ山風を嵐といふらむ 

② 理由が書いてない時は、疑問詞がなくても「どうして…なのだろう」という意味になる。

ex:  ひさかたの光のどけき春の日にしづこころなく花の散るらむ

 

例としてあげた歌はどちらも、百人一首にありますから、そのうち出てきます。
というわけで、その時、また復習できますが、ここでは②の意味になります。

 

というわけで歌全体としての意味は

 

住の江の岸に寄る波のように、こんなにもあなたに思いを寄せているのに、昼間だけではなく、夜までも、どうして、私は、夢の中の通い路でも人目を避けてしまって、あなたのいる岸辺に行けないのだろうか。

 あるいは、相手の人が夢の中でも「人目を避けて」私に会いに来てくれない、という意味にも取れます。

いづれにしても、現実にも、夢にも会えないので、つらいんです。

 

住の江に 波寄る夜の 夢にさえ

 

          人目避けるか 君に会えない