秋風に たなびく雲の 絶えまより

 

   もれ出づる月の 影のさやけさ

 

    左京太夫顕輔

 

左京太夫顕輔(さきやうのだいぶ・あきすけ)。

 

《たなびく》。

漢字は「棚引く」ですから、棚のように「横になびいている」ということです。

 

《月の影》。

「影」は現代語のような光によって出来る影法師を指すのではありません。
もちろん、その意味もあるのですが、

 「影」は「光」

です。

中学生の頃、「追憶」という歌を音楽の時間に習った。

 

星影やさしく またたくみ空
仰ぎてさまよい 木陰をゆけば
葉裏のそよぎは 思い出誘いて
澄みゆくこころに しのばるる昔
ああ、なつかし その日

 

というものです。
星の影とは何かと父親に聞いたら、笑われました。
なるほど、星の光ならまたたくはずですな。

ことばで説明すべきはこれだけでしょうか。

歌は平易明瞭。
秋空の月あかりを歌ってほかに何もない。
技巧をあえて捨てて、事物そのものを歌った歌だが、風景が心を語るための比喩であったり、あるいはそれを引き出す序詞の役割しか果たさない歌の中に入ると、かえってその澄みきった明瞭さが際立って見える。

あたかも、この歌自体が、百人一首の雲間からふと顔を見せた秋のきよらかな月のようだといってもいいかもしれない。

 

風は澄んだ秋空を渡り
たなびく雲は
陰に隠した月明りに、
かえってその輪郭をくっきり見せている

おお、それにしても、
折しもその絶え間から漏れ出た月の光の
なんと澄みきった明るさであろう!

 

気持ちのよい歌です。
こんな平明な歌、どう書き変えればいいんだろう。
上下を入れ替えてみようか。

 

 

絶えまより もれくる月の さやけくて

 

   雲たなびかす 秋の夜の風