へんぽんと ひるがえり かけり
胡蝶は そらに まいのぼる
ゆくてさだめし ゆえならず
ゆくて かがやく ゆえならず
ただ ひたすらに かけりゆく
― 八木重吉 「胡蝶」―
昨日はあたたかかったが、今日は寒い。
午後からは冷たい雨さえ降り始めた。
昨日まで道端を明るくしていた黄色いタンポポも朱色のナガミヒナゲシも、今日は花を閉じている。
夕刻、串田君が、筑波でのアパートも決まって、4日に向うに行くのだと報告に来た。
大学に入っても、彼は野球を続けるらしい。
いつまでも寒い春だけれど、明日からは四月。
ホマン君もまさる君も大平君も上田君も高橋君も大学生だし、
「体を鍛えて給料もらえるなんて、天職だわ!」
と言っていたカシン君は消防士だ。
国家試験に合格した愛ちゃんも、明日から看護師としての一歩を踏み出す。
私にはもう遠いことだが、思えば、四月は、若者たちが、皆新しいステージに立つ月なのだ。
塾の子どもたちだってそれぞれに学年が上がる。
中学生たちは三年生になると言っても、まだまだのんきなものだが、高三になるジュリ君は、春休み、毎日勉強をしに塾にやって来ている。
古典の方はまだまだ私に叱られてばかりだが、串田君からたくさん問題集やらをもらった日本史がずいぶんおもしろいらしい。
今日は壬申の乱まで。
一日教科書5ページ分くらいの私の話を聞いた後、教科書やら資料集やらを開いてはせっせとノートをとっている。
その指先には赤いマニキュアなんかが付けてある。
春休みは学校に行かないからそんなおしゃれも試せるらしい。
初めてそれを目にしたとき、あんまり爪が小さいので、なんだか枝先につぼみをつけた紅梅みたいだと思ってしまった。
まったくつぼみみたいな少年少女たち。
その一つ一つのつぼみが、それぞれにあかるくひらく四月になるといいな。