「道長が家より、みかど・きさき立ちたまふべきものならば、この矢あたれ」

 

― 「大鏡」―

 

よいお天気。
跨線橋をゆるゆる下りていくと、黄色い帽子をかぶった保育園の子どもたちが十人ほどかたまって信号を待っている。
付添いの保母さんが、
「もうそろそろかなあ」
と言うと、子どもたちがみんなで信号に向かって
「あおになあれっ!」
と声をあげたので、ちょっとびっくりした。

「あれっ。青になってくれないね。もう一回言ってみようか」
保母さんが言うと、今度はもっと大きな声で
「あおになあれっ!!」
と言ったら、今度はちゃんと青に変わった。

そうだよね。
ことばには力があるんだよね。
忘れていたよ。

「日本には言霊(言霊)信仰というのがあって・・・」
なんて、学者が利いたふうに言っていたりするけど、言霊信仰なんてどこの国にだってあるに決まっている。
呪文とか、まじないとか、祈りとか、人は深いところで、みんな、ことばに力があると信じてるんだ。
子どもを見ればそれがわかる。