ふり返って左の肩越しに新月を見た
光のない 色だけのかたむいた弧にさえ
ぼくは祈る さいわいはぼくらの上にあれ
一條の幸運なと ぼくらの前に射せ
(・・・・・)
ぼくらの胸の ぼくらのかなしみをいとおしめ
とおい国の歌をおもいだしてうたおう
― 衣更着信 「左の肩越しに新月を見た」―
夕方、ジュリからメールがあった。
先生!お月様みて!すんごい素敵な感じ😊
それだけ〜😉
見れば、雨あがりのすこしうるんだ空に三日月。
なるほど、「すんごい素敵な感じ」だ。
新聞を開いてみると、今日は旧暦の三月三日らしい。
そうか、今日は、昔ならおひなまつりの日だ。
今まで思いもしなかったが、昔の人たちは、お雛祭りの夕暮れにはかならず三日月を西の空に見ていたのだな。
旧暦の三月はこんなにもあたたかく、人形を飾ってぼんぼりに灯りをともした部屋からゴンドラのような三日月を眺めていたのだ。
ひょっとすれば、西洋の女の子たちが白馬の騎士にあこがれるように、雛の前に座った日本の娘たちは、いつかあの三日月のような船に乗って、自ら櫂を漕ぎ自分を迎えに来るすてきな男性を夢見ていたのかもしれない。
それにしても、こんな春の夕暮れは、濃いコーヒーをいれて、おいしいクロワッサンを食べねばなるまい。
それがすてきな春の三日月への礼儀というものだ。
「とおい国の歌をおもいだし」ながら。