あなたはなほも語るでせう

よしないことや拗言(すねごと)や

洩らさず私は聴くでせう

――けれど漕ぐ手はやめないで。

 

         ― 中原中也「湖上」―

 

今朝は、「お気に入り」の中からYou tubeのモーツアルトのK516の弦楽五重奏曲選んで聞いていた。

 

 

 

新聞を読み、昨日の日記を書いたりしているうちに、You tubeの方は、あと勝手に曲を選んで流してくれるわけだが、その3曲目か4曲目に同じくモーツアルトの「協奏交響曲」が流れてきた。

 

 

 

 

ふと目をあげて画面を見ると、若い娘さんがバイオリンを、若い男性がビオラを弾いている。
いいなあと、そのまましばらく画面を見続けていた。

で、なんだろう、その画面を観ているうちに、不意に

琴瑟(きんしつ)相和す

ということばを思い出してしまった。

第一楽章、合奏団が奏でる前奏を、やがて同時に二人が受けとめ演奏が始まるのだが、すぐにバイオリンがひとり語りはじめる。
するとその語りに答えるように同じメロディをビオラが追い、またバイオリンが奏で、ビオラが追う・・・・・・。

なんだか、「いいなあ」という気分になってくる。
若い恋人たちの語らいを聴いているようだ。

第二楽章のバイオリンの哀切きわまるメロディも、ビオラは太い声で受け止めていく。
つらい、かなしい思いはちかしい者にしか言えない。
それを言い放しにさせないで、うなづき受けとめ、同じ調べで慰めているみたいに聞えてくる。
二楽章、もちろん、いいに決まっている!

三楽章になると明るい。
二人とも明るい。
明るく歌い、明るく答える。
そうやって、めでたく曲は終わる。

 

相槌をうつといえば、俵万智なら

 

「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ

 

なんてことになるのかもしれないが、でもモーツアルトのそれのほうが万倍すてきなのは言うまでもない。

 

ところで「琴瑟相和す」ということば。
ここに出てくる「琴」の方はご存知だろうが、「瑟」はその「琴」の大型にした弦楽器で、瑟の方が弦の数も多いらしい。
(ちなみに両方の漢字の頭についている「王・王」という形は、弦楽器の頭部の糸を巻きつける糸巻きのネジの象形だそうで、そういえば琵琶湖の琵琶にもこの「王・王」がついている)
そんな異なった楽器でありながら、うつくしいハーモニーを紡ぎ出すのが「琴瑟相和す」ということで、だからこれは仲むつまじい夫婦のありようを指すたとえになっている。

つまりは、相手の奏でる音にお互い相槌を打ちながら、二人して素敵な調べをかたちづくっていくってことだろうか。

この「協奏交響曲」を聴いていると、夫婦円満の秘訣は「夫唱婦随」ではなく「婦唱夫随」にありそうな気がするなあ。

・・・などということを思ったのは、昨日が飯塚君の結婚式だったせいかなあ。

きっと、琴瑟相和する、しあわせな夫婦になっていくんだろうなあ。