ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
紀友則
チャイコフスキーの「四季」というピアノ曲集の六月にあたる曲は「舟歌」と題されている。
けれども、目を瞑って聞いていると、私にはそれが六月の歌ではなく、むしろ、そのピアノ一つ一つの音が、散りくる桜のはなびらのひとひらひとひらのよう聞えてくる。
まるで、だれもいない公園の中に迷い込んだような。
最後の一音が終わると、こんな歌を思い出す。
桜花散りぬる風のなごりには水なき空に波ぞ立ちける
紀貫之